COLUMN
2022年3月11日
2025年の崖とは何だったのか ~ 経済産業省のDXレポートをあらためて通読してみた
タグ:システム開発
企業向けITの世界では、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が注目を集めています。とくに、経済産業省が2018年から発表してきたレポートが大きな影響を与えています。
これまで、DXレポートは、複数のバージョンが発表されてきました。コロナ禍などビジネス環境の変化もあり、レポートが伝えようとするメッセージも少しづつ変わってきたように思います。
そこで、このDXレポートをあらためて通読すると共に、経済産業省の経済振興策を振り返ってみました。
2018年9月DXレポートを発表
ニュースリリースの冒頭で、DXレポートを次のように紹介しています。
経済産業省は、我が国の企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現していく上でのITシステムに関する現状の課題の整理とその対応策の検討を行い、『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』として報告書を取りまとめました。
- デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会の報告書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』をとりまとめました (METI/経済産業省)
- DXレポート (サマリー)
- DXレポート(本文)
レポートでは、冒頭で将来のデジタル企業の理想像にふれていますが、既存のITシステムが足を引っ張る可能性があるということで、この課題をどう解消するかに焦点が移っています。
そこで「2025年の崖」というキャッチ―なワードで危機感をあおっています。
レガシーシステムが存在することによるリスク・課題もまとめてあります。
対応策として、ユーザー企業とベンダー企業の目指すべき姿と両者の関係性を説いていますが、中心は経済産業省の施策提言になっています。これは経済産業省のレポートなので仕方ないところかもしれません。
その結果、本来のDXを論じていないとか、レガシーシステムを何とかすればDXといった反応が出てきた感じですかね。DXの実現と称してAI・IoT・ビッグデータといった技術の活用もブームになりましたが、実証実験にとどまる例もたくさんありました。
この後、経済産業省はDX普及のための施策を順次打ち出してきました。
2020年12月 DXレポート2を発表
DXレポート2が、中間とりまとめとして公開されました。
- ニュースリリース:デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』を取りまとめました (METI/経済産業省)
- DXレポート2 中間取りまとめ (サマリー)
- DXレポート2 中間取りまとめ(概要)
- DXレポート2 中間取りまとめ(本文)
コロナ禍の影響で、リモートワークが当たり前になったり紙への捺印がやり玉にあげられたりと、多くの人ができるはずないと思っていたデジタル改善が一気に進みました。DXレポート2では、「迅速かつ柔軟に変更して環境変化に対応できた企業と、対応できなかった企業の差が拡大」と言ってます。
このレポートは、前回のDXレポートのふりかえりから始まっています。一定の成果を上げたものの調べてみたら大半の企業がDXできていないことが明確になったと述べています。また前回のレポートのメッセージがきちんと伝わっていないとしています。
そのせいか、今回のDXレポート2は、次のような広範囲な内容を取り上げています。
- 第2章:DXの現状認識とコロナ禍で表出したこと
- 第3章:デジタル企業の姿と産業の変革
- 第4章:企業の経営・戦略の変革の方向性
- 第5章:政府の政策の方向性- 第6章:DXレポートでの指摘とその後の政策展開
とくに第3章では「企業の目指すべき方向性」「ベンダー企業の目指すべき方向性」をわかりやすく打ち出しています。
また政策提言だけでなく、企業のアクションについても説明しています。
レポートの本文版では、DXの取組み領域を明らかにするために、DXの各アクションを取組領域とDXの段階に分けて整理したものを、DXフレームワークとして提供しています。
2021年8月 DXレポート2.1を発表
前回のDXレポート2で企業の経営・戦略の変革の方向性を示しました。しかし、変革後の姿について議論を進められなかったので、デジタル変革後の産業の姿やその中での企業の姿、そして企業の変革を加速するための課題や政策の方向性についてまとめて、DXレポート2.1 追補版として公開されました。
第2章で、DXレポート2で示した現状をさらに詳細に分析し、第3章で今後の方向性を描きだしています。また第4章でそのために必要な政策について整理しています。
- 第2章:ユーザー企業とベンダー企業の現状と変革に向けたジレンマ
- 第3章:デジタル産業の姿と企業変革の方向性
- 第4章:変革に向けた施策の方向性
とくに、第2章でユーザー企業とベンダー企業の現状と変革に向けたジレンマとして、その相互依存関係が、低位安定の関係であると指摘しています。
つまり、ユーザー企業においては「コスト削減」を達成し、ベンダー企業においては「低リスク・長期安定のビジネス」を実現するという一見Win-Winの関係でありながら、この関係を継続することで両者がともにデジタル時代において必要な能力を獲得できない危機的な状態に陥ってしまうからです。
レポートでは、「ユーザー企業であれベンダー企業であれ、この低位安定の構造を認識するとともに、この構造から自ら脱する方策を検討すべき」と述べています。
2021年11月 DX実践手引書 ITシステム構築編を発表
DXレポートではありませんが、DXを実現するITシステムを構築するための実践手引書が公開されました。
- DX未着手・途上企業の担当者向け「DX実践手引書 ITシステム構築編」を公開:~DX を実現するためのあるべき IT システム「スサノオ・フレームワーク」を紹介~IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
- DX 実践手引書 IT システム構築編 暫定 第 1.1 版
- DX 実践手引書 IT システム構築編 レガシーシステム刷新ハンドブック
実際にDXを実現するITシステムの姿を描写しています。
![DXを実現するためのあるべきITシステム「スサノオ・フレームワーク」](dx_401.png)
ちなみに、Hexabaseは、組織内サービスの「業務・基幹システム群」と「各社独自サービス」の構築に役立ちそうです。
DXを実現するには
経済産業省のDXレポートに従うだけが、DXを実現する方法ではありません。DXレポートに従うだけで、DXが実現するほど簡単でもありません。技術的な難しさだけでなく、経営層の理解力と決断力、デジタル人材の育成・確保も重要だからです。
しかし、DXレポートに従わないとすると、自社の将来像を独自に描きだす必要が出てきます。それを顧客や株主・社員などに理解・評価してもらうことも欠かせないでしょう。
それなら、DXレポートの提言を一種のスタンダードとして利用するほうが簡単ではないでしょうか。自社がどのように位置付けられるか説明しやすくなりますし、成果が出れば経済産業省の評価制度も活用できるからです。
残念ながら、ITベンダーに丸投げしてもDXは実現できません。自社の競争力の源泉は自分たちで見つけるしかないからです。
企業でビジネスを進める人たちが、自分たちの将来像を主体的に描き出すことが何より重要です。
関連資料
経済産業省か発表したDX関連資料を時系列でまとめています。